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3話 飛竜の群れと絶望の視線

Author: みみっく
last update publish date: 2026-03-15 17:11:35

 不穏になりかけた空気を察したのか、リーダーが沈痛な面持ちで男を制した。

「いや……噂が本当なら、あり得るな。……それ以上の不要な詮索は止めろ。俺たちの命を守ってくれているのは、彼らなんだからな」

 リーダーの言葉に、男は納得がいかない様子ながらも、口を噤んで歩き出した。

「まあ、秘密ってことで……お願いします」

 俺が人差し指を口に当てて笑ってみせると、隣のサナが「わたしのそらは凄いだろ?」と言わんばかりに、さらに強く腕を絡めてきた。

洞窟の浄化と地獄の炎

 山道を登り詰めると、岩肌にぽっかりと口を開けた巨大な洞窟が姿を現した。周囲には禍々しい気配が漂い、入り口には見張りと思われる五体のゴブリンが、粗末な槍を手に周囲を警戒している。

「みんな待機しろ! 周囲の警戒も怠るな!」

 リーダーの鋭い号令とともに、パーティの面々は一斉に草むらや岩影へと身を隠した。彼らにとって、これから始まるのは死力を尽くした隠密行動か、あるいは決死の突撃なのだろう。

 だが、俺とサナはその横を平然とした足取りで通り過ぎた。

「おい、そら! 何を……!」

 背後でリーダーの驚愕の声が上がるが、構わずに歩を進める。俺の姿を認めた見張りのゴブリンたちが、耳障りな叫び声を上げて襲いかかってこようとした瞬間——俺は静かに指先を突き出した。

《ヘルフレイム……》

 虚空から噴き出した漆黒を帯びた紅蓮の炎が、瞬時にして洞窟前を警戒をしていた見張りの5体のゴブリンを飲み込み、灰すら残さず焼き尽くした。

 勢いのまま、俺は洞窟の奥へと向けてヘルフレイムを連発する。

 轟音とともに、地獄の業火が蛇のように洞窟内を這い回り、奥に潜んでいた数え切れないほどの気配を一気に呑み込んでいく。本来ならもっと効率の良い魔法もあるが、今は「強力な火属性魔法で一掃した」と思わせておくのが一番角が立たないだろう。

瞬きの一時間の殲滅劇

 洞窟の奥から響いていた騒がしい気配が消え、辺りに静寂が戻る。俺はすぐさま土魔法を発動させ、生き残りのゴブリンが逃げ出さないように……それと、この後に何が起こるのかを見せないようにする為に洞窟の入り口を巨大な岩壁で封鎖した。

(さて、後処理を済ませておくか……)

 意識を集中させ、探索魔法を洞窟の隅々まで張り巡らせる。壁の向こうにひしめいていたゴブリンたちの位置を正確に把握すると、空間転移を連続して発動させた。

 まずは、奴らの体内にある魔石だけを強制的に引き抜き、自分のストレージへと回収する。そして、核を失い物言わぬ肉塊となった800体余りの死体を、そのまま地面から二メートル下の地中へと転移させ、土の中に埋没させた。これで作戦後の腐敗臭や病原菌の心配もない。ついでにため込んでいたお宝を回収を済ませた。

 仕上げに、入り口を塞いでいた土魔法を解除する。そこには、最初から何もなかったかのような、静かな洞窟の入り口だけが残されていた。

「……終わりましたけど」

 岩影から様子を伺っていたリーダーの元へ戻り、事も無げに告げる。

「え? まだ一分ほど……しか経っていないじゃないか?」

 リーダーは時計を見直すような仕草をしながら、信じられないといった様子で声を上げた。

「巣が小さかったんじゃないですかね。800体しかいませんでしたよ」

「……800体『も』居れば、普通は全滅を覚悟するほどの大変な数だぞ……大規模なパーティ編成が組まれる規模だぞ!」

 剣士の男が顔を引きつらせながらツッコミを入れてくる。確かに、一般の冒険者からすれば悪夢のような数だろうが、俺とサナにとっては朝の散歩の露払いに過ぎない。

 リーダーは深いため息をつき、自分たちの常識を棚上げするように首を振った。

「いや……殲滅できていれば、余計な時間を取られなくて済んだ。助かる。……何度も言うが、彼らへの詮索は止めておこう。これ以上の驚きは心臓に悪い」

 リーダーの決断に、他のメンバーも無言で頷く。サナはと言えば、俺の魔法の鮮やかさに満足したのか、機嫌良さそうに俺の腕を揺らしていた。

飛竜の群れと絶望の視線

「先を急ぎましょう」

 俺の言葉に、少し呆然としていた女性メンバーが我に返ったように頷いた。

「そうね。先を急ぎましょう」

「ゴブリンは苦手なのよ、臭くて……」

 彼女は鼻を覆うような仕草をしながら、清掃の終わった洞窟の前を急ぎ足で通り過ぎる。

 山道をさらに登り詰めると、不意に上空から巨大な影がいくつも重なり、地面を覆い尽くした。見上げれば、断崖の突き出た岩場を拠点に、20体近いワイバーンが翼を休めている。

「……今度は、ワイバーンか……さらに厄介だな」

 リーダーの顔が苦渋に満ちる。これまでのような地上の魔物とはわけが違う。

「これだけの数がいると、広範囲の上級攻撃魔法でしか倒せないな。……剣で初撃に奇跡的に一匹倒せても、他が空に逃げるからな。怒らせたワイバーンに上空から攻撃を受けることになるぞ」

 男が愛剣の柄を握りしめたまま、忌々しげに空を睨む。

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